アンサンブル ディマンシュ 第88回演奏会


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これは既に終了した演奏会です。
日時: 2021年2月21日(日)
会場:
府中の森芸術劇場 ウィーンホール

曲目:
モーツァルト
 歌劇「魔笛」序曲 K.620
シューベルト
 交響曲第3番ニ長調 D200
ベートーヴェン
 交響曲第5番ハ短調「運命」Op.67

指揮:
   平川 範幸

今回の聴きどころ

 2020年はベートーヴェン(1770-1826)の生誕250周年に当たるため、各地でベートーヴェンを取り上げる企画も多かったはずです。(実際はコロナの影響で中止を余儀なくされた演奏会も多かったようですが。)当団では、第83回演奏会(2018.9)の交響曲第1番を皮切りに、前回第87回(2020.9)の第4番まで、ベートーヴェンの交響曲を順番に演奏会に取り上げてきました。(第84回を除く。)今回はいよいよ交響曲第5番「運命」の登場です。前プロはモーツァルトの歌劇「魔笛」序曲ですが、この2曲については説明を要さないと思いますので、「今回の聴きどころ」は、演奏される機会の少ない中プロのシューベルトの交響曲第3番に焦点を当ててみました。

シューベルトの「イタリア交響曲」~交響曲第3番ニ長調

◆イタリアの香りのする交響曲
 交響曲第3番は、シューベルトが18歳の1815年に完成した曲で、「悲劇的」と呼ばれる次の第4番とは対照的に若さ溢れる明るさに満ち、喜劇的、楽天的な曲です。特に第4楽章にはイタリア舞曲タランテラ(風な曲)を配置していることから、イタリアの雰囲気も合わせ持った曲です。メンデルスゾーンはイタリア交響曲の第4楽章に同様の舞曲サルタレロを置いていますが、もしかしたらこの曲からインスピレーションを得ているのかもしれません。

 筆者は、初めてこの曲を聴いたとき、むしろ第1楽章にイタリアの作曲家ロッシーニ(1792-1868)のオペラの序曲の影響があるのではないかと感じました。特に主部の第2主題は、ロッシーニが1812年に書いた「幸福な錯覚(L’ingannofelice)」という歌劇の序曲(同年トランペットを加えて「バビロニアのキュロス(Ciro in Babilonia)」という別の歌劇の序曲に転用)にそっくりだからです。(このことは筆者が調べた資料等にはなく、あくまで個人的感想です。)このオペラは、1816年11月にロッシーニのオペラとして初めてウィーンで公演され、ウィーンにおけるロッシーニ・ブームの火付け役となっています。

 なお、第2楽章と第3楽章は、どちらかというとドイツやオーストリアの古い歌曲や舞曲を連想させ、残念ながら「イタリア風」とは言えないでしょう。

◆シューベルトとロッシーニ
 ただ、この曲がロッシーニの影響を受けているということについては、否定的な意見もあります。前述のとおり、ウィーンでは、1816年にロッシーニのオペラが初めて公演され、その後大流行します。そのオペラのウィーン初公演が、この交響曲の作曲時期より後に当たることがその理由です。シューベルトは、当時、アントニオ・サリエリ(1750-1825)というイタリア人の作曲家(モーツァルトの映画でライバルとして登場する人物)に師事しており、イタリア風なのはサリエリへの忖度だというのです。しかし、サリエリの管弦楽曲はオペラ以外ほとんどなく、そのオペラは1801年を最後に書かれていません。1815年に書かれたこの交響曲とは時代的なギャップがあり、作風が全く異なります。もちろんサリエリの影響は少なからずあるかもしれませんが、やはりロッシーニの影響と考えるのが妥当でしょう。ウィーンでの大流行以前であっても、シューベルトが何らかの形でロッシーニの序曲に接して、知っていたという可能性は否定できないと思われます。

 ちなみにシューベルトは、1817年に「イタリア風序曲」という演奏会用序曲を2曲書いています。このうち第1番は「ロザムンデ」序曲の原曲で、第85回演奏会(2019.9)で当団が演奏しています。この二つの序曲は、ウィーンでロッシーニのオペラが大流行している最中に書かれ、ロッシーニの序曲の影響は明らかです。
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