マグノリアオーケストラ 第15回定期演奏会
これは既に終了した演奏会です。日時: 2018年10月28日(日)
会場:
さくらホール(渋谷区文化総合センター大和田)
曲目:
ミヨー:
屋根の上の牡牛
オネゲル:
夏の牧歌
チャイコフスキー:
交響曲第6番「悲愴」
須藤裕也
《プログラム紹介》
躍動感と喧噪、平穏と静寂、内省と激情が、それぞれに描かれた多彩な3作品をお届けする。しかし同時に、音楽史的・文化的に隣り合い、接点を待つこれら楽曲はどこか似た世界観を纏っている。動と静、外界と内面、目の前にある日常と想い出の中の過去へと行き来しつつ進むプログラム構成により、3章立ての1つの物語として不思議な説得力を持った演奏会となるだろう。
《現在とロマン派を繋ぐ、若々しく近代的なフランス楽曲》
プログラム前半は「フランス6人組」のダリウス・ミヨー(1892 – 1974)とアルテュール・オネゲル(1892 – 1955)による楽曲を演奏する。普段演奏される機会の少ない両曲は、共に1920年頃の作曲である。当時の西洋音楽はワーグナー以来加速した調性の拡大と崩壊が極限に達し、シェーンベルクらによる十二音音楽が確立された時期であった。それは本能的な感性による調和の世界を否定し、理性による調和に目を向けていく過渡期と言える。
バレエ音楽『屋根の上の牡牛』はミヨーがブラジルで出会った非西洋の音楽に啓発されて書いた曲である。ミヨーもまた、従来型の音楽がもはや通用しなくなってきていることを感じていたが、調性を完全に否定することはなく、むしろ同時に複数の調性が並存している多調・複調の研究に傾倒した。本作でもそれらは効果的に用いられている。複調や半音階的進行の多用は人々の雑多な日常を、調を変えながら何度も繰り返される主題部は祭りの永続性を髣髴とさせる。加えて、サンバやタンゴのリズムや際立って聞こえるギロの音などが南米特有のムードを醸し出している。
『夏の牧歌』は、19 世紀フランスを代表する詩人アルテュール・ランボーの詩の一節 “J‘ai embrassé l’aube d‘été” (僕は夏の夜明けを抱きしめた)からインスピレーションを得て書かれたとされる。印象派の影響力が強かった当時のフランス音楽界の中で、オネゲルだけはドイツ・ロマン派の権化たるリヒャルト・ワーグナーの音楽に傾倒していた。結果、両派から影響を強く受けたオネゲルは、相反する要素が止揚されている好例と言える。本作も和声自体はロマン派の範疇だが、ミクソリディア旋法(長調の第7音が半音低められた音階)の解決感に乏しい和声進行を用いることで、どこか曖昧さや浮遊感のある欧州の夏の情景をイメージさせる。
《人生を投影した、内省的でロマンチックなロマン派の集大成》
125年前の10月28日(グレゴリオ暦)、交響曲第6番の初演を迎えた後まもなくしてチャイコフスキーは急逝した。その死因が解明に至っていないため、本作が彼の“辞世の句”であり彼は自殺したのだ、とする言説もよく見られるが真偽のほどは誰にもわからない。楽曲の暗澹たる雰囲気と謎めいた死にも後押しされ、その副題 “Pathétique” 、邦題で『悲愴』は人口に膾炙した。この語はチャイコフスキー自身が書簡等で用いた表記に倣っていて、フランス語で「悲しい、痛ましい、同情を誘うような、哀れな」というニュアンスを持つ。一方、自筆スコアにはロシア語でпатетическаяと書かれており、こちらは「情熱的な」というニュアンスである。すなわち、チャイコフスキー自身がこの曲に与えたかったイメージは「人間の持つありとあらゆる激しい感情の揺れ」ではないだろうか。その中には悲しさだけでなく、憤怒や歓喜、そして恋慕の想いも当然に包含されていたはずである。
ところで、交響曲第6番は楽譜上に音量の指示、速度表記、曲想標語が非常に多い。実は、これらの多く(特に速度に関するもの)はチャイコフスキー自身の手による指示ではないと判明している。例えば4楽章の冒頭、現在の表記ではAdagio lamentosoだが、チャイコフスキーがスコアに残したのはAndante lamentosoである。音楽の印象が変わるほどの変更が未だに直されずにいることは、人々がこの曲に持つ「重苦しく非常に陰鬱」というイメージの強大さを示しているようである。本公演では曲を巡る風聞からの先入観に左右されすぎず、作曲者の手による音楽的情報を第一に尊重して演奏を行う予定だ。
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